第21回 島清恋愛文学賞受賞作、島本理生さん初の官能小説『Red』を読みました。
生々しい性描写が多い小説ですが、私が感じたのは「女性の生きづらさを赤裸々に綴った小説」だということ。
心に響く言葉がでてくるたびに付箋をつけていたところ、付箋だらけになりました(笑)
どなたか共感してくださると嬉しいな・・・。
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三島有紀子の監督、夏帆と妻夫木聡の共演で映画化されました!
不倫相手への「愛」と「憎しみ」のコトバ
体だけのドライな関係だったら、きっともっと早く離れることができた。だけど鞍田さんは私に本気だと錯覚させる範囲まで踏み込んだのだ。
(中略)
自分が特別な存在になった気がして、めまいがするくらいに嬉しくて、そのたびに。
その愛情が私だけに注がれているわけではないことに、心が焼けただれるような嫉妬と悲しみを覚えた。
(出典:Red(島本理生著))
「よかったよ。俺も初めて来る宿だったから、ちょっとどうかとは思ったんだけど」
私が、それって、と言いかけたので、彼は口を閉じた。
「前に来たことのある宿だったら、それはそれで色々考えます」と冗談めかして忠告した。
「そうか。でも正直、君よりは十年分以上の経験があるから。それは仕方ないよ」
私は何も言わずに苦笑した。こういうことを言う人なのだ。昔から。変に正しさを貫こうとする。倫理観や常識ではなく、自分自身にとっての正確な言葉、という意味で。
(出典:Red(島本理生著))
「じゃあ愛していますか?」
鞍田さんの顔つきが変わった。驚いているように見えた。考えもつかなかったことを言われた、とでもいうように。
「結果的に嘘になるかもしれないことは、俺には、言えないよ」
彼はあきらめたように答えた。
「うん。知ってる」
だから、この人は一人になったのだろう。他人を受け入れるということは矛盾することだから。自分の正しさを貫こうとすれば、誰とも生きられない。
「それは正直、結婚していた彼女にも、言ったことも、考えたこともなかった」
十年前にも同じ会話をしたことがあって、私は深く絶望したのだ。どちらも愛している、ならまだしも、誰も愛したことがない、という事実に最後の余力を搾り取られた。
(出典:Red(島本理生著))
「好かれているのは分かるし、向こう見ずな情熱も嬉しいけど、でもそれは毎日を無事に過ごしていく安心にはならない。あの人は、どこか危ないし、愛情っていうものを決定的に知らないんです。一緒にいても、一人で生きてる感じがする」
(出典:Red(島本理生著))
☝いますよね!こういう人!
「そんなにずっと安定して好かれて安心できないと愛とか呼べないもん?」
「どういう意味ですか?」
「だってさー、キリストとかって旅しながら、いきなり病気の人間とか娼婦に愛を注いで奇跡起こしたんだろ。それって会ってすぐの、ほんの一瞬じゃん。それは究極の例でもさ、好きなタイプって一目見て気に入って盛りあがったら、なんとなくその記憶で続くもんだし。セックスだって会話だって、長くいりゃあ、かならずいつか飽きるし。人生でほんの一瞬でも本気になれたら、十分じゃないの。」
(中略)
私は、ほんの一瞬か、と呟いた。だけどそれだけで強く生きていくことができるのだろうか。いつだって相対評価ばかり気にしてしまう自分が。
(出典:Red(島本理生著))
私も相対評価ばかり気にしてしまいます。
絶対評価に目を向けられれば、自信がつくのかな?
「一瞬でもいいんだって。好きとか愛してるとか、ずっと思い続けるのが本物じゃなくて、一瞬でも本気になればそれでもう十分じゃないかって」
「そうか」
鞍田さんは否定も肯定もせずに呟いた。
(出典:Red(島本理生著))
「・・・さっき、君はどうして、あんなことを頼んだのかと思って」
(中略)
「自分でも、分かんない。たぶん、誰にもしたことのないことを、してほしかったんだと思う」
(出典:Red(島本理生著))
唯一無二でありたい、って気持ち、わかる気がします。
母/妻/女/ 自分のなかのバランスに悩むコトバ
女という性を内したまま、母親という役割を生きることがどれほど危ういか。あれほど軽薄で自分勝手だと分かっていた小鷹さんにさえも言い寄られたら、あっけなく傾いてしまうくらいに。
(出典:Red(島本理生著))
母親としての役割でいるとき、女の部分が邪魔になるっていうのはわかる気がします。
母親として妻として何重にもなった役割を負っても、埋まらないものがあるのだ。色んなことに遠慮してきた自分が初めて精神的にも経済的にも自立できて、居場所を得た。働くことは私にとって、そういう意味と価値を持つことだったから。
(出典:Red(島本理生著))
「結婚て、そういうもんじゃないでしょう。塔子ちゃんのことなんて全然尊重してないじゃん。相手の生い立ちごと肯定できずになにが旦那だよ。」
(出典:Red(島本理生著))
私は今まで散々嘘をついてきたけれど、本当は夫に知られてしまいたかったのかもしれない。尋問されて追及されて、否定しても疑われて、すべてが明るみに出たら。
夫もそのとき初めて、私がよそではちゃんと価値のある女性として生きてきたことに気付いてくれるのだろうか。
(出典:Red(島本理生著))
「家に帰れば、翠がいて、家事があって。翠が寝ても、一つ屋根の下にお義母さんやお義父さんがいて。本音で正直に話せるときなんて、まったくなかった。前の仕事だって辞めたくなかったし、同居だって、翠を見てもらえるのはありがたいけど、疲れて帰って来てからも、感謝して気を遣って、一秒だって気を緩めたりのんびりできない。一人で考え事ができるのは、トイレの中と通勤途中の電車内だけ。そんな状況で、あなたと心の底から分かり合う余裕なんて、どんどんなくなってた」
(出典:Red(島本理生著))
日常に流されてこれを放置してしまうと、あとあと後悔・・・
私は、ずっと戦っていたのだ。母と二人きりの日々の中で。どんなに仕事をこなしても結局は独身の若い女扱いされる会社の中で。家庭の円満のために。新しい会社では、子供がいても働く女性として。そのことを、他の誰よりも認めずになおざりにしてきたのは、私自身だった。そして、その戦い方では、もう限界だということも。
(出典:Red(島本理生著))
かみ合わない夫婦の会話
「なにもしなくてもって言うけど、結婚した後も、いちいち愛情もらうためになにかしなきゃいけないわけ?そもそも愛情って無償のものを言うんだろう。それに俺だって、塔子がもし病気になったら、それでも支えたいって思ってるよ」
「そういうことじゃなくて、私が言いたいのは、もっと日常的なことで」
「毎日一緒に暮らしてるのに、そんなにしょっちゅう女の人の機嫌取ったりなんて俺にはできないよ。そういう男はよその女にも同じことをやってるんだよ」
全体的には的外れのくせに、最後の台詞が心に刺さった。
(出典:Red(島本理生著))
塔子の夫は、
✅何もしなくても愛されると思っている。
✅塔子の再就職を許可したときも、家事や育児の負担を自分にかけないことが暗黙の前提。
✅子供をかわいがるだけで、一晩でさえ自分だけで子供の面倒を見られない。
すご~く子供っぽい夫に描かれているのです。
夫と生きる自分自身に投げかけるコトバ
「風俗って、男の人は一回くらい行ったことあるのかとおもってた」
「ないよ!だって馬鹿みたいじゃん」
「馬鹿?」と私はちょっと驚いて、訊き返した。
「仮にそういう気分になったとして、支度して家を出て、駅まで自転車漕いでさ、駅から電車に乗ってさ。もし改札でSuicaに残高なかったらチャージするんだろ?」
思わず噴き出した。
「それ想像したら、なんで家族を裏切ってまでってなるんだよなあ」
私はとても腑に落ちた。この人は、結婚という制度にとても向いている人なのだ。ある面ではひどく偏っているけれど、ある面ではとてもまっすぐなのだ。どんなに色気があっても、女性の気持ちが分かっても、結婚という舞台においては、こういう誠実さほど強いものはない。
(出典:Red(島本理生著))
たしかに、結婚に誠実さは大事だとは思います・・・
ちゃんと働いて、夜遊びもせず、浮気もたぶんしていなくて、暴力もふるわない夫と上手くいかないのは究極的にはセックスだけ――誰もが心や人間性が大事だという。体の相性で結婚相手を選ぶなんて話は知らないし聞いたことがない。
(出典:Red(島本理生著))
うーん
「だけ」っていわないでほしいな・・
さいごに
本書の解説の一部をご紹介したいと思います。
これを読むだけで本書の魅力がわかる!?
肌が合う男と抱き合い、身のうちに潜んでいた快感を呼び起こされた時の喜びが強ければ強いほど、それまで塔子が抱えて来た寂しさが浮き上がって見えて来る。こんなにも、こんなにも、塔子は寂しかった。表面上は仲の良い姑との関係も、根本的に自分と向き合おうとしない夫との関係も、一人の女としてではなく、母として、妻としてという役割でしか自分が捉えられていないということにも、塔子はずっとずっと耐えて、耐え続けて来たのだ。たった一人で、戦って来ていたのだ。
本書を初めて読んだ時は、その官能描写の濃さに圧倒された記憶があるのだが、改めて読むと、塔子にとって、鞍田からもたらされる肉体的な充足が、精神の安定の支えになったのだ、と分かる。そして、精神が安定したことで、塔子が手に入れるのは、本当の自分自身だ。
(出典:Redの解説(吉田伸子著)
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