久しぶりの短編集『一人称単数』
しばし現実を忘れて、ゆっくり時間をかけて味わって読みました。
現実と架空のはざまの世界を旅しながら。
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ウィズ・ザ・ビートルズ
簡単なあらすじ
世間がビートルズに熱狂していたころ、10代の僕にはつきあっているガールフレンドがいた。
ある日彼女を家に訪ねたが、彼女は不在。
しかたなく彼女の兄と会話をして待つことに。
兄は今でいう引きこもり。
芥川龍之介の「歯車」を朗読してほしいと僕に頼む。
そしてときどき記憶が飛ぶことについて告白する。
ストーリーは静かに展開していきます。
そして最後は20年後の今の世界へ。
引きこもりで、たまに記憶を喪失するガールフレンドの兄が出てきて、
死を連想させるような、ちょっと不気味な雰囲気の作品です。
世界順の人間がみんな揃って自殺したとしても、あいつ一人だけはしっかり生き残るやろうと、たかをくくっていた。幻滅やら心の闇やらを、一人で抱え込むタイプとはどうしても思えなかった。はっきり言って、考えの浅い女やと思っていた。
(中略)
悪いことをしたと、心の底から悔やんでるよ。ぼくにはあいつのことがよくわかってなかったのかもしれん。何ひとつあいつのことを理解してなかったのかもしれん。ぼくは自分のことで頭がいっぱいになっていたのかもしれん。
(中略)
何かを少しでもわかってやることはできたはずや。あいつを死に導くことになった何かをな。そのことが今となってはとてもつらい。自分の傲慢さや、身勝手さを思い出すと、たまらんほど胸が痛む
(出典:ウィズ・ザ・ビートルズ(村上春樹著))
品川猿の告白
↑ 扉絵の猿となんか似ています ↑
簡単なあらすじ
5年前に僕が立ち寄った群馬のとある温泉に、言葉を話す年寄りの猿が従業員として働いていた。
猿は風呂で僕の背中を流してくれ、そのあと部屋でいっしょにビールを飲む。
猿は好きになった女性の名前を盗みながら生きているという話を始める。
動物が登場する村上作品は大好きです。
現実と架空のはざまの世界へ、あっという間に吸い込まれてしまいます。
愛というのは、我々がこうして生き続けていくために欠かすことのできない燃料であります。その愛はいつか終わるかもしれません。あるいはうまく結実しないかもしれません。しかしたとえ愛は消えても、愛がかなわなくても、自分が誰かを愛した、誰かに恋したという記憶をそのまま抱き続けることはできます。それもまた、我々にとっての貴重な熱源となります。
(中略)
私はこれを自分なりのささやかな燃料とし、寒い夜にはそれで細々と身を温めつつ、残りの人生をなんとか生き延びていく所存です
(出典:品川猿の告白(村上春樹著))
『東京奇譚集』の品川猿をもう一度読み返してみようと思います。
クリーム
簡単なあらすじ
浪人中のぼくは、昔ピアノ教室でいっしょだった女の子からリサイタルの招待状をもらう。
花束を買い、山の上の会場に着いたが、扉は閉まっていてぼくは途方に暮れる。
具合が悪くなり公園のベンチで休んでいると、目の前に老人がいることに気づく。
老人はぼくに「中心がいくつもあって、しかも外周をもたない円を思い浮かべることができるか?」と問う。
不思議ではじまり、ずっと不思議が続き、不思議の中で終わる・・・
✅招待状をもらったのは現実?夢?
✅この老人はだれ?
✅外周をもたない円って??
老人はぼくにこう言います。
この世の中、なにかしら価値のあることで、手に入れるのがむずかしうないことなんかひとつもあるかい。
けどな、時間をかけて手間を掛けて、そのむずかしいことを成し遂げたときにな、それがそのまま人生のクリームになるんや
(出典:クリーム(村上春樹著))
後日ぼくはこう結論付けます。
いったいどういうことなのかと考え込んだ。傷つきもしたと思う。でも時間を経て、距離を隔てて眺めてみると、みんなだんだんどうでもいいつまらないことに思えてきた。それは人生のクリームとはなんのかかわりもないことなのだろうと。
僕らの人生にはときとしてそういうことが持ち上がる。説明もつかないし筋も通らない、しかし心だけは深くかき乱されるような出来事が。そんなときは何も思わず何も考えず、ただ目を閉じてやり過ごしていくしかないんじゃないかな。大きな波の下をくぐり抜けるときのように
(出典:クリーム(村上春樹著))
謝肉祭
簡単なあらすじ
僕は今までの人生で知り合った中で最も醜い女性と出会う。
彼女の容姿は醜いのだが僕と音楽の趣味がぴったり合った。
特にシューマンの謝肉祭がいちばん好きなところが。
僕の妻は、僕が彼女にたびたび会いに出かけても気にしなかった。
それはおそらく彼女が醜かったからだろう。
醜いけれど魅力のある女性
彼女はこう言います。
私たちは誰しも、多かれ少なかれ仮面をかぶって生きている。
まったく仮面をかぶらずにこの熾烈な世界を生きていくことはとてもできないから。
悪霊の仮面の下には天使の素顔があり、天使の仮面の下には悪霊の素顔がある。
どちらか一方だけということはあり得ない。それが私たちなのよ。それがカルナヴァル。
そしてシューマンは、人々のそのような複数の顔を同時に目にすることができた――仮面と素顔の両方を。なぜなら彼自身が魂を深く分裂させた人間だったから。仮面と素顔との息詰まる狭間に生きた人だったから
(出典:謝肉祭(村上春樹著))
石のまくらに
簡単なあらすじ
大学生のころ僕はバイト先の女性と一夜を共にする。
彼女は短歌を作っていると僕に話す。
それから少しして彼女は僕に自作の歌集を送ってくる。
彼女に二度と会うことはなかったが、短歌のいくつかは僕の心に残っている。
彼女は今でも生きているのだろうか?
僕にはそれを知る術がない。
彼女は生きているのか?
僕がそう思う理由は、彼女の短歌のほとんどが男女の愛と人の死に関するものだったから。
題名の「石のまくら」はコチラ ⇩
石のまくら/に耳をあてて/聞こえるは
流される血の/音のなさ、なさ
(出典:石のまくらに(村上春樹著))
一人称単数
簡単なあらすじ
スーツをほとんど着ない私が、スーツ姿でバーへ。
ギムレットを片手に読書をしていると、見知らぬ女が声をかけてくる。
「そんなことしていて、何か愉しい?」
その後も私のことを罵倒し続ける女。
我慢の限界を感じバーの外へ出ると、世界が違って見えた。
この女とそのあとどうなるんだろう?
読み進めていっても親密にはならず・・・
私は彼女を知らないが、
彼女は私を間接的に知っている?
不思議な読後感でした。
チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ
簡単なあらすじ
15才のとき僕は音楽誌に「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」という架空の曲について原稿を書いた。
15年後ニューヨークのとある中古レコード店で、「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」のレコードが売られているのを見つける。
買おうか迷ったが買わずに店を出る。
その晩夢にチャーリー・パーカーが出てくる。
彼は僕にお礼を言う。
音楽に詳しくない私ですが、ストーリーはとても興味深かったです。
ヤクルト・スワローズ詩集
小説というよりはエッセイです。
「僕」は村上春樹さんご自身のことなんだろうな?
当時は弱かったヤクルト。
自虐的なのが面白い!!
人生の本当の知恵は「どのように相手に勝つか」よりはむしろ「どのようにうまく負けるか」というところから育っていく。
(出典:ヤクルト・スワローズ歌集(村上春樹著))
でも村上春樹は長編のほうが好きです。