加藤シゲアキさん4作めで、初の短編集『傘をもたない蟻たちは』を読みました。
6作品の中で、ハッピーエンドはナシ!
人の生きづらさ、苦悩や痛み・悲しみがあふれていて、圧倒されました。
どんなふうにすごいのか?をお伝えしていきたいと思います。
※未読の方にネタバレしないように気をつけます。
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染色
物語の冒頭は?
美大に通う主人公。
学校近くの居酒屋でたまたま見かけた女子学生は、突然カバンから塗料スプレーを取りだし、自分の腕に吹きつける。
まるで制汗スプレーのように。
後日コンクリートの橋げたにスプレーでらくがきをしているしている彼女を見かける。
二人はすぐに打ちとけ、お互い惹かれていく。
主人公には恋人がいるというのに・・・
この女子学生は、自分の体を色で染めないと不安でパニックになるのです。
大学生の話なのに読後感は暗いです。
アイドルが書いたと思えないくらい、性的描写がたくさん含まれています。
Undress
物語の冒頭は?
脱サラのため会社を去る主人公。
「サラリーマンを離れるのでも辞めるのでも諦めるのでもなく、脱ぐ。素晴らしいく粋ではないか。」
円満退社をしたつもりの主人公の未来は、はたして明るいのか?それとも・・・?
気がつかないうちに傲慢になっていませんか?って頭をガツンと殴られた感じがしました。
読後感はこれまた暗い!
恋愛小説(仮)
物語の冒頭は?
作家の主人公に男子の恋愛をテーマにした小説の執筆依頼がくる。
苦手な分野でもあり気が乗らないが引き受ける。
案の定書き始めるとすぐに行き詰まる。
寝てしまった彼は夢の中で美しい女性と出会う。
なんと!自分が書いた恋愛小説が夢で再現されていることに気づく・・・。
それだけ聞くと楽しそうな話にも思えますが、実は・・・。
人間とはなんと利己的なのだろう。
加藤シゲアキさんは、人の醜い部分を表現するのがうまい!と唸りました。
イガヌの雨
物語の冒頭は?
2035年、人々を虜にしているイガヌという食べ物。法規制で来月には食べられなくなるのもあり、人々はこぞって食べたがる。
祖父の言いつけで今まで一度もイガヌを口にしたことがなかった主人公だが、ある日初めてイガヌを食べ、恍惚とする。
言いつけを破りイガヌを食べてしまった罪悪感でいっぱい。
しかし頭の中はもうイガヌのことしか考えられなくなり・・・
イガヌって何?
どうも空から降ってくる生き物らしい。
「イガヌを食べた人間は頬が赤らみ、顔の筋肉がだらりと垂れ、焦点が定らなくなる。甘ったるい匂い、心地よい痺れが全身を貫き、恍惚に溺れる。」
恐ろしいですね。
いろんな方の意見を聞いてみたくなる小説でした。
私の一押しです。
インターセプト
物語の冒頭は?
同僚の結婚式の二次会で、主人公は部下の女性を口説こうと企む。
さまざまな恋愛テクニックを駆使し近づくが、つれない態度でかわすだけでなく、口説きにかかっていることを真正面から指摘され、あえなく撃沈する。
しかし彼女が立ち去った後に落ちていたスマートフォンを返しにいくと・・・
なんだか明るく楽しい物語が続く予感がしますよね。
でも全然違うんです。
読後感はぞっとして身震いです。
にべもなく、よるべもなく
物語の冒頭は?
中学の先輩がとある文学賞を受賞した。海と山と工場しかない故郷の町は大騒ぎとなる。
小説の舞台は華やかな都会。
ポルシェ、首都高、香水、官能的な美女・・・
田舎育ちの先輩は想像で書いたのだろうか?
この短編集の中で私がもっとも感動したのが、地元の漁師のお爺さんのセリフです。
人ってのはな、喜ぼうと思っても限界はあるが、悲しもうと思うと際限なく悲しむことができる。だったら最初から悲しまねぇことだ。何があってもわしは悲しんだりしない。ただの出来事として受け入れる。
漁師の言葉は、すべてに悲観的になり、そこから抜け出す道を見失っていた主人公の心にも響きます。
あまりにも悲しいことがあると、ちょっとした悲しみなら、ただの出来事として受け入れられてしまうとは。
それも悲しい。
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以上、加藤シゲアキさんの短編集『傘をもたない蟻たちは』の感想を述べさせていただきました。
これからも加藤さんの小説を読んでいきたいと思います。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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