著者の宇佐見りんさんは、21歳の現役大学生なんですね。
・21歳での芥川賞受賞は史上3番目の若さだそうです。
・そのうえデビューから2作目にしてのスピード受賞とのこと。
素晴らしいですね。
『推し、燃ゆ』をさっそく購入!
アイドルの追っかけの話なのかな?
軽い気持ちで読み始めたところ・・・
その内容は重く苦しいものでした。
※未読の方にネタバレにならないよう気をつけます。
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日常生活で当たり前のことができない苦しみ
主人公のあかりは女子高生。
当たり前のことがうまくできません。
(はっきりと触れられてはいませんが発達障害の可能性あり?)
あかりの苦悩
☑自分では頑張っているつもりなのに、出来ないことだらけ。
☑いつも無理しているから、すごく疲れる。
【例】
うまくいかない現実がひしひしと伝わる部分をご紹介します。
寝起きするだけでシーツに皺が寄るように、生きているだけで皺寄せがくる。誰かとしゃべるために顔の肉を持ち上げ、垢が出るから風呂に入り、伸びるから爪を切る。最低限を成し遂げるために力を振り絞っても足りたことはなかった。いつも、最低限に達する前に意思と肉体が途切れる。
保健室で病院への受診を勧められ、ふたつほど診断がついた。薬を飲んだら気分が悪くなり、何度も予約をばっくれるうちに、病院に足を運ぶのさえおっくうになった。肉体の重さについた名前はあたしを一度は楽にしたけど、さらにそこにもたれ、ぶら下がるようになった自分を感じてもいた。推しを推すときだけあたしは重さから逃れられる。
(出典:推し、燃ゆ(宇佐見りん著))
どうでしょう?
あかりの苦しみが手にとるように感じられ、苦しくなってきませんか?
どうやって彼女は精神を保って生きているのでしょう・・・
その答えが「推し」だったのです。
あかりはアイドルグループの中の一人を、人生をかけて”推し”ます。
日常生活では何もうまくできない彼女が、これだけは完璧にできるのです!
現実世界での存在感は薄いあかりですが、SNS上ではファンのあいだで有名な存在です。
感想
「現実世界」と「自分の内なる世界」
2つの世界のバランスが不均衡だと、人の精神は破綻してしまう。
ぐらつきながらも耐える。
やじろべえ”を思い出した。
あかりは、現実世界がうまくいかない分、内なる世界を”推し”でいっぱいにして、必死に均衡をとっているのだと思った。
家族と理解しあえない苦しみ
家族はこう思います。
「普通のことすらできないのに、追っかけばっかりやって!いったい何を考えているんだ!!」と。
正論です。
私があかりの親だったら同じことを言うと思います。
あかりは家族に反論します。
「働け、働けって。できないんだよ。病院で言われたの知らないの。あたし普通じゃないんだよ」
(出典:推し、燃ゆ(宇佐見りん著))
あかりにここまで言わせてしまうとは、なんと残酷なのでしょうか。
家族だって、頭ではわかっているはずなのに。
感想
他人なら笑って許せることが、家族は許せない。
認めたくなくて、逆に突き放してしまう。
「家族」という狭くて近すぎる社会では、いちど信頼関係が失われると、こじれて、もつれて、修復不可能になることが多いのだ。
悲しすぎる。
苦しみから逃れる方法はあるのか?
あかりと家族、それぞれの苦悩が迫り、読んでいてたびたび苦しくなりました。
宇佐見りんさんの筆力に圧倒され、読後も余韻が抜けません。
もしあかり達と話すことができたら、自分は何を伝えたいだろう?
考えてみました。
方法1:できないことだけを見て悩まないでほしい
これができない。
あれもできない。
みんなはできるのに・・・
なぜか人はできないことにフォーカスするのです。
「普通」と比べて。
できないことがたくさんある人にだって、できることはあるはずなのに。
できることをやって生きていけば良くありませんか?
そんなに「普通」でいることって大事ですか?
方法2:気づいているのに見えないふりはしないでほしい
☑気づいているのに見えないふりをしていませんか?
☑気づいているのに聞こえないふりをしていませんか?
一番近いはずの家族に「見えないふり」「聞こえないふり」をされたら、いったい誰を信じればよいのでしょう?
この広い地球上には自分の理解者は存在しない。
そう思うのは自然なことだと思います。
誰もが抱える生きづらさと、生きていかねばならない使命と
「いま、来てて偉いって言った」
「ん」
「生きてて偉いって聞こえた一瞬」
(出典:推し、燃ゆ(宇佐見りん著))
誰もが多かれ少なかれ感じる生きづらさを、宇佐見りんさんは「肉体の重さ」と表現しました。
肉体の重さ
昨日の重さと今日の重さは違い、明日の重さとも違う・・・
でも、生きていく私たちは、その重さとうまく折り合いをつけて生きていくしかないのです。
そんなことを改めてじっくり考えさせてくれた小説に出会えました。
たくさんの方に読んでほしいと思いました。
最後までお読みくださりありがとうございました。